ショーペンハウエル「知性について」(1)

ショーペンハウエル「知性について」は「自殺について」、「読書について」と共に作者晩年に書かれた哲学小論集の一部分です。
私がまだ十代の頃でしたが、この「自殺について」と「読書について」は本屋さんで見つけましたが、「知性について」はあいにく見当たらず、直接出版社から送ってもらった記憶があります。
それほどまでにして読んでみたいと思ったのですが、当時その内容についてはよく分からなかったと思います。
ただ断片的な言葉は現在に至るまで記憶に残っています。
たとえば、スペインのことわざで「あほも自分の家なら、よその家にいる利口者より、勝手がわかる」とか、「女性は普遍的な物事に対する感受性がなく、個別的な事柄に眼をつけるのが特色である」とか、「発電体が良導体でないように、天才とは学ぶ人ではなく、自ら光を発する人である」などなど。

この訳書も他と同様に数編が収められています。
全編を通じて随想録といった感じで、それほど内容が一貫しているわけではありません。
また、同じような趣旨が繰り返されている部分もあったり、卑近な話もあるかと思えば、いきなり核心に迫ることもあります。
しかし、ショーペンハウエルが知性に関してどう考えているのかは凡そ見当がつくと思います。
私が今関心があるのは、前回でも採り上げた「生きんとする意志」に関してです。
なぜショーペンハウエルが「生きんとする意志」を世界の本質としたかです。
私には「生きんとする意志」とは単に自然界の現象を説明した言葉にすぎず、それが本質であるとは思えません。
しかもショーペンハウエル自身が「生きんとする意志」を否定しているわけですから、否定されるべきものが本質であろうはずはありません。

さて、この訳書の第一編は「哲学とその方法について」となっています。
ここでショーペンハウエルは、誰でもが哲学者になれるわけではなく、詩人と同じく天賦にしてはじめて成るものであるといっています。
哲学を勉強することによって哲学学者には成れても、哲学者には成れないということでしょう。
また、哲学は詩的作品と違い、読者の考え方を根本からくつがえそうとするのであり、今まで学び信じていた一切を誤謬とし、初めから出直すことを要求するということです。
この点に関しては、私のこのブログも多少は当てはまるかもしれません。
このブログの考え方も世間の一般常識から見れば逸脱してしている点もあるかと思います。
私としては、たとえ少数の人でも理解していただければ幸いであると思っています。

次にここでの論旨で注目すべきは、10の合理主義と照明主義の間を行きつ戻りつ揺れ動いている云々、という部分です。
合理主義とは客観的認識源泉の使用であり、照明主義とは主観的源泉の使用ということだそうです。
合理主義は独断主義で始まり、次に懐疑主義と入れ替わり、最後は批判主義、即ち、先験哲学となるといいます。
それぞれ見方に違いはあるものの、知性によって世界を把握しようとする点では共通です。
照明主義とは内的照悟とか知的直観とかいわれるもので、宗教を基礎に置くと神秘主義となるといいます。
哲学が合理主義を立場としているのに対し、照明主義とは宗教的な神秘体験を基としているといえるでしょう。

さて、哲学、即ち知性によって世界の本質が全て解明できるとするならば、照明主義なるものは無用となります。
しかし、残念ながら知性によって全てを解明することは出来ません。
かならず説明不可能な点に至ります。
そこで照明主義が前面に出てくると言う訳です。
ただ、照明主義の根本的な欠陥は、その認識が伝達不可能なものであるという点です。
伝達不可能であるがゆえに、また証明不可能であるということになります。

ショーペンハウエルは哲学者であり、それも最高の哲学者をもって任じているわけですから、当然伝達可能である客観的な合理主義を立場にしているわけです。
したがって、ショーペンハウエル自ら「客観的な合理主義の道をたどって行けるところまでしか進まなかった」としており「その先を照明主義のために空けておいた」といっています。
しかし、結局は照明主義もその目的に達することはできないとして、唯一正しい客観的に有効な方法は、われわれの内面の本質である意志を把握し、それを客観的な外界認識の説明に適用することであるとしています。

ここにおいて私の前述した疑問、なぜ「生きんとする意志」を世界の本質としたのかということへの解答が語られているような気がします。
ショーペンハウエルはあくまで合理主義の道、即ち知性によって世界を把握する立場であるということです。
この偉大な哲学者は、知性そのものを捨て去ることは、終に出来なかったのでしょう。

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Author:magokorokara
私は学者でも、宗教家でもなく普通の社会人ですが、人生問題に悩んでいた若い頃読んだ本を長い年月というフィルターを通してみて、あらためて考えたことを整理しながら書いています。

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