私の見たプラトンのイデア論

前回はアリストテレスのイデア論批判を見てきたわけですが、その内容はイデア論の修正であったわけです。
全体的に見ればプラトンの哲学をほぼ継承しているのです。
質料と形相という概念によって、プラトンのイデア論の欠陥を修正したわけですが、結局、彼も神との関係においておなじ矛盾に直面することになりました。
イデアと個物との関係が曖昧であり、論理的に不整合であるとした彼の非難は、自分の学説にもあてはまるというわけです。
私に言わせれば、永遠なるもの、絶対なるもの、そして我々の本源といわれるものは、論理を超えたものであり、論理の延長線上にはないのであって、論理をどんなに遡っても真の実体に到達することはできません。
ですから、プラトンやアリストテレスの説に完全な整合性を求めるのは無理なのです。
といっても、このような議論が無意味ということではありません。
我々の理性を正しい方向に導いているのは確かだからです。

さて、プラトンのイデア論ですが、確かに矛盾や論理の飛躍があります。
しかし私はある方向から見ると、全く整合的になることを発見しました。
それは、我々の心の問題として捉えるということ、すなわち唯心論的にみるということです。
もちろん発見したといっても、それは私の中での話であって、イデア論を唯心論的に見るということはすでに多くの先人達によってなされてきたことです。
たとえば、古代のプロティノスという人もそのような見方をしたといいます。
プロティノスはまた唯心論の祖ともいわれています。
では私の考えとして唯心論的に見るとはどういうことかというと、こころの要請としてイデアを見るということです。
アリストテレスやプラトンもそうなのですが、世界を論理的に解明しようとする仕方がその背景にあります。
しかしそこで直面するのが論理の不整合という問題です。
なぜこのような問題が起こるのかといえば、本来論理とは無縁なことを論理的に説明しようとするからだと思われます。
たとえば、幸福とか不幸、善と悪、生と死、喜怒哀楽、食欲性欲など人間の生き方に関することなどは論理とは無縁です。
なぜ恋人を愛するのかと問われても、論理的に説明することはできません。
しかも、我々にとって関心があるのはこのようなことなのであって、形相とか質料などという問題は、はっきりいってどうでもよいのです。
それに、世界は機械仕掛けではないので、全てを因果関係で説明することはできないということもあります。
世界はあくまで無限であって、有限な人間の論理で捉えることができません。
このような観点からみれば、イデア論は単に真なるものを指し示す指であるといえるかもしれません。
指自体が真なのではなく、それが指し示しているものが真ということです。
ですから、イデア論に矛盾があるという議論は、指を見て指の形を詮索しているようなものといえるでしょう。

では、なぜこのようなことが言えるのかというと、プラトン自身がイデア論を仮説であると認めているからです。
しかも、善のイデアは人間の認識を超えたものと言っているのです。
プラトンの記述による第七書簡ではこう言われています。
「善のイデアは、他のもろもろの学問の対象のように、語られうることは決してないであろう。むしろ、それは、長い年月の間、この事柄自体に関わって、共に修行をしているうちに、ある日、突然、飛び火のように、魂のうちに生まれる光であり、この光はそれから以後は己自身を養ってゆくのである。」
つまり、イデア論は仮説であるが、善のイデアは仮説ではない。それは「存在のかなた」の究極の実在だからである。究極の実在について理論的基礎づけなどありえないのである。(岩田靖夫 ギリシア哲学入門)

イデア論の矛盾や曖昧さに対して、プラトン自身あまり意に介していないということの意味がこれで納得できます。
プラトンにとって重要なのは、善のイデアであって、イデア論などはその導入部分にすぎないのです。
それはプラトンの倫理学において端的に表れています。
「絶対の善は、それ自体としてもまた魂にとっても、感性的存在という真実在でないもの、無常なもの、変転するもののうちに生活することではなくて、真実で理想的な存在へ自己を高めることである。魂の任務と使命は、感性からくる内外の害悪からのがれ、肉体的なものの影響から自己を清め解放され、清浄で正しく、それによって神に似るように努めることであって、これを達成する道がすなわち哲学なのである。」(シュヴェーグラー西洋哲学史)
プラトンにとって哲学とは、変転する無常な感覚的世界に捕らわれず、肉体的な欲望から自己を解放し、清浄で正しく生きることによって神に似ることであったわけです。
これは正しく、仏教や老子の説く教えと一致することになります。

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Author:magokorokara
私は学者でも、宗教家でもなく普通の社会人ですが、人生問題に悩んでいた若い頃読んだ本を長い年月というフィルターを通してみて、あらためて考えたことを整理しながら書いています。

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