密教

「三界の狂人は狂せることを知らず、 四生の盲者は盲なることを識らず、生まれ生まれ生まれ生まれて生のはじめに暗く、死に死に死に死んで死の終わりに冥し(くらし)」
これは弘法大師(空海)の著書である秘蔵宝鑰(ひぞうほうやく)の中の一節ですが、正に生まれる前も死んだ後も全く分からないという事実を衝撃をもって言い表した言葉(詩)でしょう。
しかもその事実をほとんどの人は真剣に考えることもなく、自分が狂人であり盲目であるということも気づかずに生を終えてしまうのです。
この誇張とも思われる空海の言葉も、現代人に当てはめれば。必ずしも的外れとは言えないでしょう。
多くの人はこのような重大問題の存在を知りつつも、日々の生活に追われて、顧みる余裕がないというのが実状です。(それに考えても分からない)
現代人は科学万能の時代の中で育っていますので、科学からはみ出たこのような問題に直面して茫然自失になるのは当然のことです。


さて空海については、私も若い頃から関心があり、「仏教の思想(空海)」や司馬遼太郎の「空海の風景」など愛読していました。
空海については、その思想内容よりも伝記の方が面白く、日本にもこういう桁外れの人間がいたのかと驚いたものです。
当時は空海についてあまり知られていなかった、というよりも空海をあまり評価していなかった時代でした。
それもそのはず、空海の広めた教えとはなんとあの加持祈祷、迷信の代名詞にも使われ、平安貴族の堕落の象徴ともなった密教なのです。
私も正直に言って、空海の生涯には非常に感銘を受けましたが、密教はどうもという感じでした。
しかし考えてみれば、密教は仏教の歴史では最後に登場する教えで、それ以後仏教はインドでは消滅してしまいます。
であるならば、最後に登場した密教はそれまでの教えを総合した最高段階の教えであるかもしれないのです。
事実、空海は「十住心論」(じゅうじゅうしんろん)において真言密教こそが人間の心の到達できる最高の境地であるとしています。
それに、密教はインドで成立して間もなく空海によって日本に伝えられています。
いわば産地直送の教えであるわけです。


とはいってもやはり密教には何か抵抗があります。
加持祈祷や陀羅尼(だらに)呪文などに何の意味があるのでしょうか。
当時最新の仏教であった密教が必ずしも最高であるとは限らず、むしろ崩壊する寸前の堕落した教えであるかもしれないのです。
「密教成立の背景には、インド仏教後期においてヒンドゥー教の隆盛によって仏教が圧迫された社会情勢がある。ヒンドゥー教の要素を仏教に取り込むことでインド仏教の再興を図ったのが密教である。しかし結果的には、インド仏教の密教化はヒンドゥー教の隆盛の前にインド仏教の衰退を防げなかった。」(ウィキペディア 密教)
ということですので、空海が最新、最高と思っていた密教は、実は民衆におもねる妥協の産物ではなかったのかという疑念がおこります。
むろん私はヒンドゥー教が劣った教えであるとは思っていません。
長い歴史のなかで支持されてきた立派な教えであると思いますが、しかし仏教ではありません。
ヒンドゥー教は、もともとバラモン教が土着の宗教を吸収しながら徐々に形成してきた多神教ということです。
日本から見るとインドといえば仏教を思い浮かべますが、実はインドでは全歴史を通じて仏教は主流ではないのです。
むしろバラモン教から派生した宗派であるわけです。
したがって、仏教はバラモン教という土壌のなかから完全に抜け出ているわけではなく、当初よりバラモン教の教えが多かれ少なかれ入っています。
ただし、釈迦は呪文や祈祷、偶像崇拝などは否定していたようです。
呪文が取り入れられるようになったのは、やはり大乗仏教になってからのことでしょう。
大乗仏典は釈迦の教えを自由に解釈し、釈迦の真意と称して書かれたものです。
多くの経典がありますが、それぞれが多くの人によって書かれたもので、主旨や内容も同一ではありません。
不幸なのは、それが全て釈迦の教説として、中国や日本に伝わったことです。
現在の日本の仏教が非常に分かりづらいのは、ここに起因しているのではないかと思われます。
そして、それに輪をかけて分かりづらくしているのは、後に出てくる密教です。
さすがに密教では釈迦の教説とは言わずに、大日如来(毘盧遮那仏)が直接説いた教えであるとしています。
大乗仏教では遠慮がちに出ていた呪文は、密教ではほぼそれ一色になります。


さて、今回は前回の続きを書くつもりでいたのですが、図らずも密教の話になりました。
空海の言葉を採り上げたのが運のつきということで、えらいものに手を付けてしまったという感じです。
仏教の世界は、正に「分け入っても分け入っても青い山」、抜け出そうにも抜け出せず、このまま進むより道なしということで、次回は空海の密教ついて見てみます。


スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

magokorokara

Author:magokorokara
私は学者でも、宗教家でもなく普通の社会人ですが、人生問題に悩んでいた若い頃読んだ本を長い年月というフィルターを通してみて、あらためて考えたことを整理しながら書いています。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR